ひととき・・・。
木漏れ日落ちる森の中。
やわらかな秋の日差しがふりそそぐ木漏れ日差し込む森の中。
所々で落ち葉が光り輝いている。
そよ風のいたずらで落ち葉が優しく舞い上がる。
ヒラリ、ヒラリ・・・。
遠くで2頭の馬のひずめが聞こえてくる。
パカ、パカ、・・・。
だんだん音が大きく近づいてくる。
パカ、パカ、・・・。
「どぅ、どうー!」
ヒヒ〜〜〜ン!
馬はいななきと共に主人の命令で走るのを止め立ち止まる・・・。
先頭の馬には艶やかな長い黒髪を鮮やかなブルーのリボンで後ろに一つで束ね惜しげも無し
に風に靡かせている。
黒い髪に黒い瞳。逞しい体つきに、どこか情熱的でエキゾチックな美しい若者。
かなり魅力的な若者だ。
後方の馬に乗っている人物は、生きた人間とは思えない美しさだった。
悪戯な風が黄金の髪をもてあそび、その肌の白さを露にし、その白さといえばまるで透き通
るような白さだった。
白皙の顔につりあった湖の底のように深い蒼い眸。
筋の通った鼻筋――――。
まろやかな唇はなだらかなラインを描き品の良さを物語っている。
スレンダーな体つきからは、あどけない少年の雰囲気を醸し出ている。
2人とも目をみはる美しい若者だった。
2人は馬から下りて近くの泉に連れて行き水を飲ませてやる。
2頭の馬は嬉しそうに水をのみ渇いた喉を潤すと水浴びをし始める。
水飛沫が2人のところまで飛んできた。
「ふふ、見ろよオスカル、あんなに喜んでいるぜ」
「ああ・・・」
楽しそうに水浴びをしている馬たちを目を細めながら眺めた。
一通り馬を遊ばすと黒髪のアンドレは大きな木に馬を繋いだ。
2頭の馬は寄り添って戯れている。
「まるで、恋人同士のようだな」
金髪のオスカルが呟いた。
「色恋に疎いおまえでも解かるのか?」
アンドレはからかう様に言った。
「・・ん? ハハ・・言いたい事を言う奴だな
それくらい、わたしにも解かる」
オスカルは自分で言いながら納得している。
そんな様子をアンドレは横目で眺めながら口元を緩めた。
馬を繋いでどちらとも無く、いつしか横になっていた。
「この間までの忙しさが嘘みたいだな、オスカル」
「フフ、確かに・・!
王太子殿下が国王陛下におなりに、そしてアントワネット様が王后陛下におなりに・・・
挨拶、挨拶で、お2人とも目まぐるしい日々だった・・・
やっと、落ち着かれたのではないだろうか・・・
お体を壊さなければ良いが、心配だ・・・」
「おまえも相当な忙しさだったぞ」
アンドレはオスカルの顔を覗き込んだ。
「わたしは、わたしの忙しさ等は、両陛下の足元にも及ばん」
オスカルは遠い目をした。
森の奥、泉のほとりは静かな憩いの場所だった。
2人の会話以外は何も聞こえずただ風がそばをすり抜けるだけだった。
2人の間をそよ風が擦り抜けていく。
優しく・・限りなく優しく・・・・・・。
どれくらいの時が経ったのであろうか。
「おいオスカル、馬も休んだことだしそろそろ行こうか?」
アンドレは起きあがり声をかける。
隣で横になっていたオスカルから返事が無い。
返事の変わりに寝息がひとつ・・・。
「え? え? お、おい!オスカル?」
アンドレの呼ぶ声も届かず眠りに就いてしまった。
「・・・やっぱり、疲れ切ってるんじゃないか・・」
アンドレは暫くオスカルの寝顔を見詰めていた。
かわいそうに・・・
きっとまだまだ忙しくなるぞ
耐え切れなくなった時は、その時はおれを思い出してくれ!
おれが、側にいる!
おれが・・・支えてやる!!
じっと見据えていると愛しさが込上げてくる。
愛している!
愛している!!
愛している!!!
おまえが全てだ!!!
そっと唇を重ね頬にかかる黄金の髪を払ってやる。
森の中は限りなく静かだった。
いたずらな風が落ち葉をもてあそんでいる・・・。