黄昏に・・・


「あんまり奥へ入らないように」
久しぶりに近衛の休暇が取れたオスカルはアンドレ・ロザリーと共に一番上の姉、オルタンスの邸に遊びに来ていた。
そこで知り合った遠縁の令嬢カロリーヌにロザリー、姪のル・ルー達を引連れアンドレと一緒にピクニックに連れ出されていた。
そしてカロリーヌがロザリーに森に行かないかと誘った。

「じゃあ、少しだけ・・・」
ロザリーがカロリーヌに返事しル・ルーと3人が森の中に消えて行く。

残されたオスカル・アンドレはお互い無言で話しかけ感じ取っていた。
2人切りと言う安心感からか宮廷の任務の解放感からかオスカルは寝入っ
てしまう。
アンドレはそんなオスカルの寝顔を覗き込む。
「ふふ、オスカルの奴、無邪気な顔して寝ている・・・
こんなあどけない顔、宮廷の貴婦人方に見せたらビックリするぞ!
それにしても・・・信じられないくらい隙だらけだ・・・」
しばし静かな優しい時間が流れる。
風そよぐ静かな午後。
2人の他に人の気配は無く風のそよぐ音と小鳥のさえずりだけが聞こえるのどかな午後。少し時間が経ったが3人は帰ってきそうな気配が無い。
オスカルもこの調子では起きそうに無い。
少し散歩でもするか・・・と考えてみたものの、もし何かあれば・・・
そう思うと散歩にも行けないアンドレだ。
仕方なくオスカルの寝顔を見つめる。
相変わらず美しい。
白く陶器のように気品ある顔立ちに黄金の髪が縁取っている。
今は閉ざされているその眸。
黒い絹糸の信じられないくらい長い睫。
その長い睫が上下に分かれる時、その蒼い眸が光を放つ。
なんびとをも虜にして離さぬ不思議な妖しい魅力・・・。
そして通った鼻筋。
その下に凛とした知的な薔薇の蕾のような唇。

まるでこの世のものと思えぬ美しさ。

ため息が出る。
このまま、このままおれのものに出来れば・・・。
食い入る様にその美しい寝顔を見つめている。



我慢できなくなりその薔薇の蕾を手折ろうとした時、閉ざされていた蒼い眸が妖しく光った。

アンドレは慌てて身を起こし何事も無かったようにオスカルの側に座る。
「う、ん・・遅いな・・3人は、まだか?」
オスカルは目覚めたもののまだ体が起きあがらない。
「あ、ああ! 探しに行こうか?」
アンドレはオスカルに手を差し伸べる。
その手を取りオスカルはゆっくり起きあがる。

2人は森の中へ消えた3人を探しに行った。
日も暮れかけた黄昏時だった・・・。


     FIN