麗しの君
蒼い蒼い海に吸い込まれた様に蒼い瞳…!
その蒼い瞳に絡み付くような豪華な黄金の髪…!
容姿といえば例え用も無い程整っている。
老若男女を問わずに宮廷の話題の人物…。
そう、麗しき近衛連隊長オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。
彼女が家に、つまりジャルジェ家に帰ると言うとジャルジェ家は貴婦人達の人だかりの山になる。
彼女が舞踏会に出席すると言う噂を聞くとその、サロンは貴婦人達で一杯になる。
彼女が女性をエスコートでもしようものなら、失神者が続出する。
それだけ彼女の人気は物凄い。
その為かどうかは解らないが彼女がエスコートする女性はフランス王妃マリー・アントワネットただ一人であった。
だが、エスコートをしてもそれまでだった。
彼女は決してダンスをしようとはしなかった。
ただ…過去に一度だけ何を思ったのか、一度だけ何時もの緋色の軍服ではなく純白の礼服を着用して宮廷の舞踏会に出席した事がある。
そう、近衛連隊長の鮮やかな緋色の軍服を脱ぎ、真っ白な礼装を着用した。
その時は一晩中ダンスをしていた。相手はもちろんマリー・アントワネットだった。
ダンスが踊れないからダンスをしない…と言う説は吹っ飛ぶ位にステキな二人だった。
とにかく美しく華やかだで軽やかと伝説的にもなっているほどだ。
彼女の側には常に影のように寄り添っている男性がいる。
アンドレ・グランディエ…彼女の幼馴染で従僕の(彼女は遊び友達としてる)身分だが彼は平民の立場なのに宮廷への出入りを許されている。
そう、かつて無い女性の近衛連隊長の護衛にだった。
今日も毅然とした態度で宮廷に伺候する。
側にはアンドレがピッタリと寄り添っている。
余程、機嫌が良いのか珍しく笑いながら歩いている。
歩いたり笑ったりする度に、日の光に透けて黄金の髪が波打っている。
誰もが一度は思う。
彼女を独占できれば…!
彼女を思うように動かせれば…!
あの容姿・頭脳…特に軍事策は他に比べるものが無いくらいずば抜けている。
本人はそんな事にはかなり疎くて気が付いていない。
これだけ能力を持った人間が自分の価値を理解していないのは自分に対し少し無頓着でないかと思う。
だが、他人の事にかけては此れほど気の付く人間がいるかと、思うほど気配りが出来ているのである。
只、若いせいか色恋沙汰にはかなり疎いようだ。
毎日々々、熱烈な視線を男女を問わず受けながら、熱い眼差しを送られているのにもかかわらず、彼女の口から出た台詞は「おいアンドレ、凄い目で睨まれているのだが…何もやった覚えがないのだがなァ…」…と、まあこんな調子だった。
見られている…と言う感覚は最近、出来てきたらしい。
少しは成長したのだな…と、見守るアンドレだった。
二人が庭園を横切り近衛隊本部から宮廷へ行く途中は普段は馬を使うのだが、今日はとても良い天気で青空が広がっているので歩く事にした。
何処までも何処までも果てし無く続く青空…。
目を射抜かれるような眩しいほどの青空…。
時々、髪を弄ぶように優しい風が頬を撫でて行く…。
『何時になく優しい目をしている…』
アンドレは横目でオスカルを盗み見てそう思った。
そんな和やかな雰囲気が周りにも伝わったのか歩いている二人の側に貴婦人達が歩み寄ってきた。
「オスカル様、ごきげんいかが?」
「オスカル様、お話しなさって下さいませ」
「オスカル様、ご一緒させて下さいませ」
…今まで静かに青空と自然を満喫して満足していたのに急に回りが騒がしくなって唖然としてしまった。
滅多に隙を見せないオスカルが一瞬の隙を見せてしまった。
それに付込まれて腕まで女性に取られるとはオスカルにしてもアンドレにしても目が点になる思いだった。
普段なら氷の眼差しで拒むオスカルだが今日は本当に機嫌がいいのか成されるままだった。
『どうしたのだろう?一体何があるのだろうか…?』
アンドレは少し薄気味悪くなってきた。
横目で見つめているとオスカルと目が会ってしまった。
「…!さっきから何を見ているのだ?
わたしが機嫌がいいとおかしいのか…?」
『ギクッ!み…見透かされている!!』
「何ですの?」
「何のお話ですの?」
「オスカル様〜!」
周りの女性達が何の事か訳がわからないので騒いでいる。
話しながら歩いてとうとう宮廷の渡り廊下まで来てしまった。
オスカルは女性達の方を向いてとても優雅に微笑んだ
「さあご婦人方、わたくしがエスコートして差し上げられるのはここまでです。
後はまた、舞踏会ででも、お会いしましょう」
そう言って貴婦人達に一礼した。その姿はまるでギリシャ神話に出てくるアポロンの様に優雅であった。皆はその雄姿にうっとりしていた。
皆と別れて二人で宮廷のオスカルの私室に向かう途中アンドレは思った。
『ウン!確かに皆が騒ぐよな、これだけの美貌を持っているんだから…!だがオスカル、おれはそんなミーハーじゃないぞ!
これまでも…そして、これからもお前だけを見つめてやる!
たとえ迷惑と言われようと!!』
そんなアンドレの気持ちが通じたのかオスカルは目だけをアンドレの方に向けて軽く細めた…。
「アンドレ!今夜は久し振りに邸に帰るぞ!!」
そう言って振り向いたオスカルはやはりすばらしく奇麗だった…。
〜〜〜FIN〜〜〜