よろしく


「かあさん、かあさん、会いたいよぉ・・何故、何故・・ぼくは、ここにいなきゃあいけないの?
・・帰りたい、帰りたいよぉ〜〜〜!」
少年アンドレは11歳の男の子。
両親が亡くなったのでおばあちゃんに引取られて3年になる。
おばあちゃんは貴族のお邸で女中頭を勤めている。
そのお邸というのがフランス王家の信任も厚く代々将軍になり国・王家をお守りしている
家柄である。
その将軍家は代々将軍を勤めているが残念な事にこの当主には跡継ぎが生まれなかった。
子供は6人いるのだが全て女の子だった。
6人目の女の子が生まれた時に将軍は決心した。
この子を跡継ぎとして、男の子として育てよう!!
そしてその子の遊び相手として少年アンドレが選ばれ連れて来られたのだった。
その子の名はオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。
アンドレより一つ年下の女の子だが、普通に育っていたら、こんなに美しい少女はちょっと見られない、
と言う位の類稀な美形だった。
顔だけ見ていれば本当にため息の出る美しい令嬢なのに男の子として育てられた為か、全くの、完全な男の子なのだ。
それゆえに、遊び相手と言っても剣の相手や馬に乗って遠乗りの相手や、今までアンドレがやった事が無いような事ばかりさせられた。
最近は大分なれてきたが喧嘩や取っ組み合いも日常茶飯事であった。アンドレにとってはもう、毎日がクタクタだった。
彼がおばあちゃんに泣いて訴えても「お嬢様の、お奇麗な顔に傷なんかつけるんじゃないよ!」・・等と言って聞いてくれない。
なんで、こんな目に会うの?
なんで、いじめられるの?
なんで、わかってくれないの?
かあさん!かあさん!かあさ〜〜〜ん!!
ぼくを、たす・・け・・て・・よ・・!
なにがお嬢様だ・・! クソッ! あの男女め!!
今に見ていろ!ぼくを、このぼくをこんな目にあわせた事を、きっと後悔させてやる!!
アンドレの瞳が炎のように燃え盛ってじっと空を見つめていた。
その時、窓から流れ星が見えた。
「あ!・・か・・あ・・さん・・」
炎の燃え盛る瞳は閉じられた。
母を思いながら11歳の少年は泣きつかれて眠りについた。
翌朝、剣の練習時間になったがアンドレは行かなかった。
「アンドレ!アンドレ、何処だ?剣の練習の時間だぞ!」
オスカルが探している。
アンドレはオスカルの探している側の大きな木の上に隠れていた。
『フフ、ここなら見つかるものか!探せばいいんだ!』
木の上から見ていたらオスカルは一人で探している。
『何故、人を呼ばないんだ?何故、大人に頼まないんだ? お前は命令できる立場だぞ』
そこへ、ばあやが来た。
「オスカルさま、今は剣の稽古のお時間ではないのですか?」
「あ、ああ、そうだよ」
「もしかしてアンドレがいないのでは?アンドレは、何処に?」
木の上でアンドレはギクッとした。
『やばい〜〜〜!おばあちゃんにばれちまった!!』
「ごめんね、ばあや、今日はチョット疲れているんで稽古を止めにしたんだ。
だからアンドレは仕事をしてるはずだよ、でも、やっぱり一緒に遊びたいから
わたしが探していたから仕事はしなくて良いっていってやってよ」
「お嬢様・・」
「フフ、わたしって我侭だね、アンドレに嫌われてしまうかな・・?」
ニッコリ笑ったその顔はとても奇麗だとアンドレは思った
『あいつ、ぼくの事おばあちゃんにいいつけなかった・・それどころか自分の所為にしてたぞ、どうなってんだ・・?』
そうしているうちにおばあちゃんは行ってしまった。
オスカルは、と言うと相変わらずキョロキョロと一人で自分を探しているようだった。
その時、突然に突風が吹き荒れた。木の上でアンドレが体勢を崩し落ちかけた。
「う、うわぁ・・!た、助けて!!」
オスカルの頭上に木の葉がハラハラ落ちた。
木の葉と共に何か悲鳴が聞こえたので上を見ると、あんなに探したアンドレが木にぶら下がっている。
それも、今にも落ちそうである。
「ア、アンドレ!!」
『ヤバッ!! 見つかった!』
「アンドレ!大丈夫か!?今・・今、助けに行くぞ!!」
オスカルは袖をめくりあげて木に登り出した。
「ま、待てよ!!危ないよ!!ぼくでさえ少し恐かったんだから・・!!」
「落ちるんじゃないぞ! 頑張れよ!!」
「やめてよぉ〜〜〜!!本当におちちゃうよぉ〜〜〜!!」とうとうアンドレは泣き出した。
するするすると、身軽なオスカルはアンドレの捕まっている枝の側まで来た。
「・・・・!」
「ほら、手を出せ、ゆっくり・・ゆっくりわたしの手に捕まれ・・!」
「無理だよぉ〜〜〜!! 恐いよぉ〜〜〜!!ウ、ウワァ〜〜〜ン!!」
「泣くな!!」
一瞬、呼吸が止まるのかと思うほど吃驚した。
目の前に出された白い小さな手の先には真剣な眼差しの少女の顔がある・・。
自分より年下の少女が自分を助ける為に精一杯してくれているのに、恥ずかしい・・アンドレは心底恥ずかしいと思った。
「さあ!落着いて、ゆっくり手を出して・・わたしに捕まるんだ・・!」
アンドレは恐々手を出した。
その手をオスカルはしっかりと受け止め思い切り握った。
「さあ、こちらへ移ってごらん・・」
「よい、しょっと・・」
かろうじてアンドレは落ちずに済んだ。
・・やっとの事で二人がそろって地上に降りる事が出来た。
「怪我はないか?」
「う、うん」
「そうか、良かったな」
そう言ってニッコリ微笑むオスカルを見てアンドレは何て馬鹿な事をやってしまったんだろうと後悔した。
「・・聞かないのか?」
「エ・・?」
「何で木の上にいたのか聞かないのか!?」
「フフ、言いたければ言えば良い、言いたくなければ言わなくても良い」
『こいつ、こいつ・・スゴイ奴だ・・!』
アンドレは何故かとても嬉しくなって来た。
『この、この少年(少女?)なら、きっと気が合いそうだ・・!
オスカル・フランソワ・・か、ぼくはオスカルから一生、離れられないような気がする・・』

アンドレは清々しい気分でオスカルを見つめた。
気の強そうな、でも気品のある鋭いサファイアの目をした美しい少女・・!。

これからも、よろしく・・!
FIN