☆ 真夜中の誕生日 ☆
眠れない・・・。
明日は、俺の誕生日だ。
まさか、誕生日が気になって眠れない年でもないが、
今夜は眠れなかった。
時計を見れば、あと10分ほどで、俺の誕生日だ。
夜、一人で迎える誕生日も、乙かも知れない・・・そんな事を
思いながら、時計とにらめっこをしていた。
トントン・・・辺りを憚るように、ノックの音がする。
【まさか・・・?】
俺はある期待を持って、扉を開いた・・・オスカルが廊下に
立っている。
俺は黙ってオスカルを見つめた。
「中に入れてくれないのか?」
オスカルが言う。
「どうした?こんな時間に?」
俺は、猛烈に意地悪がしたくなった。廊下に立つオスカルの姿は、
心細げで、可愛らしい・・・・・。
好きな子をいじめたくなる・・・そんな心境だ。
いつまで経っても部屋に入れないので、オスカルが心細げだった。
チーン、チーン、チーン・・・・・時計の鐘が12回なった。
「アンドレ。誕生日、おめでとう」
オスカルは、一気に言って、立ち去ろうとする。
「おい、ちょっと待てよ」
俺は、オスカルの手首を掴み、強引に部屋に招き入れ、壁に体を
押しつけながら言った。
「祝いの言葉だけで、帰るつもりか?」
「どうしろと言うんだ」
オスカルが上目使いに睨んだ。
「ここは俺の部屋で、真夜中。しかも、おまえと俺の二人だけ・・・分かっているだ
ろう? 」
オスカルは俯いた。
【可愛い!!】
俺は思わず、笑ってしまう。
「オスカル、顔を上げて・・・」
顎を両手で包み込んだ。柔らかい肌の感触、甘い香り・・・俺の心を駆り立てる。
赤い唇に口づけした。
この感触・・・今年の誕生日は最高だ。俺は、口づけを楽しんだ。
去年の誕生日・・・ふたりが愛し合うなんて想いもしなかった。
俺の腕の中にオスカルがいる。俺の口づけを受け、俺に縋り付く
オスカルがいる。
もう最高だ。これ以上の幸せはない。
だが、俺は我慢できない。
口づけの後、オスカルを抱き上げ、寝台に運んだ。
オスカルはあらがいもせず、俺のなすがままになっている。
寝台に体を横たえ、もう一度、口づけする。
今度は、もっと濃厚に、もっと深く・・・オスカルの体が微かに
震えていた。
二人が愛し合うようになって、まだ、日も浅い。
交わした口づけも数えるほど、まして、肌身を許し合ったのは
一度だけ・・・。
そんなオスカルが俺の部屋に来るのは、よほど勇気がいった
ことだろう。
俺は、オスカルが愛しくてたまらなかった。
俺の腕の中で、震えるオスカル・・・。
昼間は、兵士たちの先頭にたち、堂々と指揮する軍神マルスの
申し子。戦いの女神よ。
その堂々とした面影は、今はない。
こんな愛らしい姿は、俺しか知らない。俺だけが知っている秘密だ。
オスカルに口づけしながら、洋服を脱がせていく。
顕わになった裸身に体を重ねていく。
オスカルの耳元で、何度、愛の言葉を囁いたことだろう。
オスカルの甘える声を、何度、聞いたことだろう。
俺達は、夢中で愛し合った。
目が覚めると、オスカルは俺の腕の中で、寝息を立てている。。
こんなに可愛らしい寝顔をしているのか?
【もう一度、おまえを抱き締めたい】そんな想いをかろうじて押さえた。
もうすぐ、召使い達が起き出す時間だ。
オスカルを自分の部屋に連れて行かなくては・・・俺は、寝台を
抜け出し、洋服に着替えた。
そのまま、眠っているオスカルを抱き上げた。
「うん?何・・・?」
「おまえの部屋に連れていく。まだ、ゆっくりお休み、オスカル」
額に口づけした。
オスカルは、安心して、また、眠りについた。
寝息が俺の胸にかかる。心臓がとろけてしまいそうだ。
【これからは、こんな夜を何度も迎える事が出来るだろう】
オスカルを運びながら、思った。
屋敷の中は静かだ。おまえの寝息だけが俺の耳を掠める。
今年の誕生日は、喜びの誕生日だ。
【ありがとう、オスカル。心から愛している・・・よ・・】
オスカルの部屋にたどり着き、寝台に横たえる。
一番鶏が鳴きだした。
『いけない、早く戻らなくちゃ』
オスカルは気持ちよさそうに寝ている。
「お休み、まだ、夜明けまでには間がある。いい夢をご覧」
俺は、名残惜しげにオスカルの部屋から出た。
今日は、俺の誕生日・・・この世に、生を受けた日。
去年まで、一人で過ごした誕生日の朝を、愛するおまえと
迎える事が出来た。
「オスカル、最高のプレゼントをありがとう・・・」
俺は扉の前で呟き、部屋に帰った。
寝台には、オスカルの残り香が・・・温もりさえ残っている。
俺はシーツをかき懐き、オスカルの香りに包まれて眠った・・・。
とても、いい香りだった。
【終】