千の誓い、万のくちづけ・・・・

                                     あきあずき

 夢うつつに時計の音がきこえる。
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン・・・・・・。
 12回鳴り続け、静寂の闇が訪れた。
「うーん」
 半分寝ぼけた頭で、オスカルは考えた。
【24日から25日に日付が変わった。今日は、私の誕生日・・・昨日までの
私と何処か違うだろうか?】
 静まり返った部屋の中に時計の音だけが響く。
 天幕で覆われた寝台の中は暖かい。
オスカルは寝返りをうち、傍らに寄り添うアンドレの寝顔をのぞき込んだ。
「お誕生日おめでとう・・・オスカル。何回目の誕生日だっけ?」
「うわぁー!!! びっくりした!!!起きてたのか」
「今、おまえに蹴飛ばされて、目が覚めた」
「なにを!何時、おまえを蹴飛ばした?」
「くすくすくす・・・・・・嘘だよ。すぐ本気になるんだから・・・・・・」
 アンドレの瞳が笑っている。
【こいつ!!!】
「質問に答えて・・・おまえは、幾つになったんだ」
「おまえより一つ下だ。だいたい、女性に年を聞くなんて失礼だぞ」
「これはこれは、失礼いたしました。オスカル様」
 芝居がかった態度が可笑しくて、オスカルはつい笑い出してしまう。
「さて、オスカル様のご機嫌を直すには、何をお望みでございますか」
 その言葉に、悪戯心がむくむくと湧き上がってきた。
「・・・・・・『愛している』と、千回誓ってもらおうか」
「ふーん」
「どうした?望みを叶えてくれないのか」
「千回でも、万回でも、お望みのままに・・・・・・」
「なら、誓ってくれ」
「朝までかかるぞ。いいのか」
「休暇に入ったし、私は、構わないぞ」
「そうか、では、お言葉に甘えて・・・・・・」
 アンドレの手がオスカルの肩にかかり、抱き寄せた。
「ちょっと待った!この手はなんだ」
「何言ってるんだ!おまえに誓うんだろう」
「だけど、私を抱き寄せることはないだろう 」
「えぇ!まさか『愛している』と言うのに、顔を見るだけで言わせるのか?
それなりの手順があるだろう」
 アンドレは、すばやくオスカルを抱き締め、唇を重ね、耳元で
「愛している」と、ささやいた。
「これで、一回目」・・・・・・満面の笑顔・・・・・・。
【可愛い!!】オスカルの胸が、きゅんとなったが、
「ばか、違うだろう。私が言いたいのは・・・」
 言葉は途中で遮られ、二度目のくちづけ。
「おまえの望み通りだろう・・・愛している・・・」 
「ばか、止めろったら!」
 アンドレの手を振り解く為に、横腹を思いっきりつねった。
「いたたた・・・・・・ひどいな!おまえの望みを叶えているのに・・・もう、知るもんか!」
 オスカルに背を向け、横になり、上掛けを頭から被った。
「ふん、勝手にしろ!」
 オスカルもアンドレに背を向け、横たわり、上掛けを引っ張った。
「こら、引っ張るなよ。俺が寒いだろう!」
「私だって寒いんだ!」
 背中合わせに、口喧嘩を始めた。
 夜は更けていく・・・・・・寒さが身に染みる・・・・・・。
【誕生日の始まりが口喧嘩なんて、最悪だ】
 オスカルは哀しかったが、自分から謝るのは『しゃくだ』・・・・・・。
 二人の間はこう着状態・・・・・・時間だけが過ぎていく。
 とうとうオスカルが先に音を上げ、 アンドレの背中にしがみついた。
「・・・ごめん、アンドレ・・・・・・私が悪かった・・・・・・」
 揺れる金髪、冷たい涙を背中に感じた。愛しい・・・!!!
「俺こそ、ごめん」
 二人は向き合い、優しく肌をかき抱き、くちづけを交わす。
「暖かい・・・一人より二人がいいな」
「・・・アンドレ・・・」
 オスカルの唇がアンドレの耳元に息を吹きかけ、ささやいた。
「オスカル?」覗き込んだアンドレの穏やかな微笑み、優しい眼差し。
 ・・・胸が一杯になった。
二人はそのままお互いの温もりを確かめ合い、甘い吐息が重なりあっていく。
 アンドレは「愛している」と、何度も呟いていた。
 
 オスカルがアンドレにささやいた言葉。
【最高の贈り物をおくれ・・・・・・二人の愛の証が欲しい・・・・・・】

 来年の誕生日にはきっと・・・そんな想いが心に浮かぶ・・・幸せな想いに酔い
しれながら、夢の世界に羽ばたいていく。
 ちらちら・・・・・・雪が降り始めていた。
                                      

                  【終】