diary

女のくせに。何度言われてきた言葉か。ジャルジェ家の末っ子として生まれ、
男として育てられ、軍人として生きてきた。近衛隊に入隊した。
貴族だからと表面では従う者。陰で蔑み、嗤う者。女と見縊って勝負を挑んでくる者。
相手をしてやって、こちらが勝てば女のくせにという。
何度男に生まれてくればと思ったことか。自分を男だと信じて疑わなかった幼い日々。
自分をお嬢様と呼んだばあややアンドレに対して怒ったこともあった。
自分は女なのだと思い知らされた日。それから、アントワネット様と出会った。
綺麗なブロンドの髪。薔薇色の頬。まさに少女らしい人だった。
同じ少女としてどうしてこう違うのかと思ったこともあった。
しかしその度に自分は男なのだ、軍人なのだと言い聞かせてきた。自分に。
フェルゼンに愛された女性。それは私ではなかった。初恋だった。
女にも男にもなれない私を女に戻してくれたのは誰だったか。
アンドレ。あの人だ。そうあれこそ本当の恋だったのだ。
フェルゼンときはきっと自分のほんとうの心を知るのが怖かったのだ。
兄弟同然にして育ってきた身分違いの恋人。そう自覚するのが怖かった。
きっとまともに顔を見られなくなると思った。
若かった頃も今も他人には見せたくなかった涙。
それを受けとめてくれた唯一の私の泣き場所。愛しい人。その人はもう、いない。
でも待っていてくれる。少年のころ置いてけぼりにされた私を待っていてくれたように。
私は明日、胸を張ってあのひとのところへ行こう。自分の生は全うしたと。
男として育てられたおかげで多くのものを見、聞くことが出来たと。
おまえと出会えて良かったと。女として生まれて良かったと。そう言おう。

1789,7,13 
オスカル・フランソワ・ジャルジェ・グランディエ