Eden


 はじめに、神は天と地を創造された
 地は混沌であって、
 闇が深遠のおもてにあり
 神の霊が水のおもてを動いていた
 そして神は言われた、「光あれ」
 こうして光があった
         =旧約聖書より=



 強い閃光が差しこむ。
 一つだったものが二つに分かたれた。
 「先に、行くから・・・。」
 「行くってどこに?」
 「やがて、お前も来る場所に。」
 「そこはどこにある?」
 「さあ・・・、これから行くところ。」
 「どうして一緒に行けない?」
 「さあ・・・先に行ってお前を迎える準備をするんだ。
  お前に会っても恥ずかしくないように。」
 「そこで、絶対に会えるのか?」
 「必ず。必ず探し出す。」
 「私も、必ずお前を探し出す。」
 分かたれた魂は、フランスの地へ
 一つは平凡な幸せな夫婦のもとに、 
 もう一つは、王家の親任も厚い貴族の家に。
 二つの魂はやがて出会うべくして出会い
 本人たちも自覚しないままに強く結びついていく。
 
 
 光が生まれた。
 傍らで眠る我が子。
 薄い金とも銀ともつかぬ色の髪の毛が
 小さな白い顔を縁取っている。
 きっと綺麗な金の髪になるのでしょう。
 光がそこだけ差しているよう。
 昨夜、見た夢。
 金色の髪の少年に寄り添う影。
 あれは誰?
 我が子は女、
 少年にはならない。
 そして影の少年は・・・。
 
 夫が告げた。
 この子を男の子として育てると。
 武門の家に嫁ぎながら
 跡継ぎとなる男の子を生めなかった私には
 何も反論できない。
 でも本当にそんなことができるのだろうか。
 女の子を男として育てて、そしてその先には・・・。
 
 この子には一体どんな運命が待ちうけているのか。
 私には想像もつかない。
 果たして女が軍人になれるのか。
 できるならば、この子に軍人の才能がなく
 夫が早々にあきらめられますように。
 この子に神のご加護を。

 夫が今日も自慢気に報告にくる。
 我が子がいかに軍人の才能を持ち合わせているかを。
 剣を持たせると、惚れ惚れするような剣さばき、
 馬に乗せると、物怖じせずに乗りこなす。
 ああ、このままあの子は軍人の道をひた走るのだろうか。
 女でありながら武官になることなど可能なのだろうか。
 私は我が子の将来を案ぜずにはいられない。
 女が武官として自由に生きることが
 果たして許されるのか。

 我が子が私に微笑みかける。
 でもどこか寂しそう。
 また夢を見た。
 いつか見た夢。
 あの金色の髪の少年は、まぎれもない我が子だった。
 そしてその傍らに影のように寄り添うもう一人の少年。
 あれは誰なのだろう。
 あの少年がいれば、
 我が子はもっと楽しそうに笑えるのだろうか。
 あの少年がいれば、
 我が子は武官として生きていけるのだろうか。
 あの少年が
 もしかしたら、我が子が生きていくための
 大切な存在かもしれない。
 でもあれは誰?
 いつ出会える?

 ばあやの孫が我が家にやって来る。
 両親を相次いで亡くしたという。
 我が子より1つだけ年上の
 まだ幼い少年。

 見つけた。
 彼だ。
 彼こそ、私の夢の中で
 我が子に影のように寄り添っていた少年。
 彼がいれば、我が子は武官としての人生を
 乗り越えられる、そう・・・きっと。
 私はあなたを慈しもう。
 あなたがいなければ
 我が子はきっと不幸になる。
 何故だかわからないけれど
 そう確信する。
 あなたは我が子を幸せにできる唯一の存在かもしれない。
 父でもなく、母でもなく、
 神は我が子をあなたに委ねられた。
 私の夢はその啓示だったのだ。
 だから私はあなたを我が子と同様に慈しもう。
 不幸な人間に、我が子を託せない。
 不幸な人間に、我が子を幸せにできない。
 幸せになって。
 二人とも、どうか幸せになって。


 
 お前の手が私に触れる。
 頬に、首筋に、そして肩に。
 お前の手には
 慣れていると思っていたのに。
 幼い頃、手をつないで眠った。
 二人に体格の差が出始めた頃
 差し出された手を拒んだことがあった。
 私の涙を拭ってきたお前の手。
 お前の手の感触は慣れていると思っていたのに。
 触れられるだけで体が熱くなる。
 お前が触れた箇所から
 私の体の奥にうずきが伝わる。
 お前の胸と腕が私の体をすっぽりと包み込む。
 私の体が、お前に溶ける。
 どこか記憶の彼方にある感覚と同じ。
 あれはどこだったのだ。
 重なる唇。
 絡まる舌。
 吐息とともに、お互いの魂を呼び起こし
 溶け合っていく。
 やっと・・・辿りついた、
 私が帰るべきところ。
 お前なしでは生きられない。
 お前がいなくては、私ではない。
 そんなことは昔からわかっていたのに・・・。
 
 光が生まれた。
 今、私は初めて命を実感する。
 「私達はどこに行くのだ?」
 「かつて居たところ。」
 「それはどこだ?」
 「いつか、二人が辿りつく。」
 「一人ではないのだな。」
 「二人一緒だ。決して離れることはない。」
 「また、一つに戻るのか・・・。」
 分かたれた魂は一つになって、永遠を生きる・・・。
 
 永遠の楽園
 それを神はエデンと名づけた。
 

 Fin