「 ヴィクトールの憂鬱 」


まあ、かけてくれたまえよ、きみ。
今日はいささか しゃべりたい気分なんだ。
心配して訪ねてくれたんだね?
ありがとう。


君もブランディーでいいかい? 今夜は、つきあってくれるね?
だいじょうぶ、まだ正式のお達しがあったわけではないが、降格処分程度ですみそうだ。
まあ、そういう読みがあったから、あんなことをしたわけでもあるのだがね。
われながら、らしくない行動だったと思っているよ。
ブイエ将軍の命令に背いて、近衛隊を会議場から撤退させるなどとはね!
でも、私だってたまには逸脱することだって、あるってことだな。
いや、オスカル・フランソワのこととなると、私は昔から逸脱していたともいえるかもしれない。
と、いうよりは・・・あの二人のこととなると、だな。


近衛で、あの光と影の一対をいつも まのあたりにしてきたよ。
うらやましかったね。
純粋で、なんの打算もない関係。
私は、きみもご承知のとおり 寂しい人間だからね・・・ふふ。


え?
ああそうか、きみはそうおもうのかい?
私の体内を、流れている血液の温度がひくいと? 
けっして熱くなれない爬虫類?
輝く白蛇のよう?
ふふふ・・・ ほめてくれているのかい? まあ、いいだろう。


彼女を愛していたのかって?
そうだな・・・愛というよりは憧憬だったのだろうか。
あの二人に対するね。 
このご時世だ。
放っておけば、彼女はまっしぐらに嵐のなかへ飛び込んでいくことだろう。
もちろん彼をつれてね。
結婚して、私のこの手のうちで、見守ってみたかったのだよ。あの二人を。


いや、そんなきれいごとではないな。
あの二つの魂が、互いを求め合って苦悩する現場に、立会いたかった、というべきか。


ゆがんでいる? うん、そうかもしれない。
でも、そんな私から離れられないのは、きみだろう?


今夜は、きみの好きにしていいよ。
そう、お気に召すままに・・・ね。




FIN