白い夜  2



愛しい女性が隣で寝息を立てている。
腕枕を崩さないようにしながら抱きしめた。

「オスカル・・・」

愛する人をこんな苦しい気持ちで抱かなければならないとは・・・。
お前は慰められたか?

愛しい男の代わりでもいいと思えてたのに。
お前を抱く前までは・・・。

アンドレはふぅとため息をついた。

「・・・ん」

オスカルがうっすらと目を開けた。
「ごめん、起こしたか?」
自分に起きたことをよく把握できてない様子だった。
「あっ・・・」
次の瞬間、自分の姿と状況を自覚したのか戸惑いの
色を見せ始めた。
「後悔してるのか?」
アンドレが問いかけた。
「俺とこんなことになって・・・」
オスカルは下をうつむいてしまった。

「分かっているよ、フェルゼン伯の代わりだってことくらい」
「・・・すまない」
「謝るな」

俺がお前を抱きたかったんだ。
俺に全てを許してくれた、それで十分だ。

彼女は無垢だった。
初めて男に肌を許すのはどんなに怖いことだっただろうか。

なのに・・・謝るな。

「さて、もう行くよ。みんなが起きる前に」
アンドレは手早く着衣を纏った。
「アンドレ・・・」
「ん?」
扉にかけた手が止まる。
「今夜のことは・・・」
言葉を詰まらせる。
「お前が忘れたいと言うなら・・・でも俺は忘れない」
オスカルに背を向け続けた。

「初めて愛する人を抱いた夜だったのだから」

黙ってしまったオスカルに「お前はもう一度寝ろ」
と声をかけてアンドレは扉を閉めた。



それから5日ほど経った夜のことだった。
アンドレは眠れずに寝台から起き上がった。

月明かりのせいだな。

あまりに明るい満月だった。
カーテンを開けて窓の外を覗く。
やはり明るかった。

そして地上に月明かりよりも更に明るい金髪を
見つけるのに、そう時間は掛からなかった。

あの馬鹿!

また何か思いつめてるに違いない。
上着を手に取ると静まり返った屋敷を抜け、庭へと急いだ。

オスカルは噴水のそばに座っていた。
小声で声をかける。
「風邪ひくぞ馬鹿」
と言うと上着をかけてやった。

「・・・アンドレ、何故私がここにいると?」
「お前のことなら何でも分かるさ」

隣に座り、そのまま抱き寄せて言った。
「何を悩んでいる?」
オスカルは一瞬驚きの表情を見せ軽く笑った。
「全く・・・本当にお前に隠し事は出来ないな」
と言うとアンドレの肩に頭をのせる。

「私は何故女なのだろう・・・」

まだそのことで悩んでいたのか・・・フェルゼン伯か?

「女でいることは辛いか?」
「分からない・・・男でいることが辛いのかもしれない」
「でもお前は女だ」
「・・・うん」
「だったら女でいいじゃないか」
オスカルは黙って頷いた。

「俺はお前が女でよかった」

しばしの沈黙が流れる。

「アンドレ・・・」
沈黙を先に破ったのはオスカルだった。
「ん?」
「眠れないんだ」
「実は俺もだ」
と言うとオスカルはふふっと笑った。

「俺のところに来るか?」
その問いかけにオスカルは黙って頷いた。

分かっている。
彼女が愛しているのは自分ではない。
分かっている、分かっている・・・。

その夜、寝台の中でオスカルはこう問いかけた。

「私がドレスを着たらどう思う?」