ちいさな木の実
秋の日差しが枯葉の色を照らしだしている。
赤・黄色・深緑・・・。
・ ・・そして少年はひとり駆けて行く。
「おーいアンドレ、こっちだ。」
「まってくれよ、オスカル。おばあちゃんにつかまりそうになって。」
「ハハハハハ、早くこいよ。おいていくぞ。」
2人は、白馬と栗毛の馬にのって駆けてゆく。
もう秋。
木々は夏のすがすがしい緑から、カラフルな色へと変化する季節。
だが、馬上の2人にとってはたいしたことではなかった。
「やっと着いた。みてみろアンドレ。この前みつけたんだ。」
オスカルははやる心をおさえきれず、馬から飛び降りる。
はじめて見つけた赤い宝石にも似た木の実。
それがひっそりと、木の葉の間からその実をのぞかせている。
「お前って元気だな。」
「なにを言っている。はやく下りて見てみろ。
こんなにきれいな木の実は初めてみたんだ。それを見せたくて」
やれやれこのお姫様は、と本人が聞いたらきっとくってかかって
くるだろうことを思いながらアンドレは、息せき切って馬上からおりた。
「へえ〜、可愛い実だな。」
「そうだろう、アンドレ」
本人はいたって満足。満面に笑みを浮かべている。
まぶしい・・・とアンドレはおもった。
「で、どうするつもりだ」
「そうだな、母上にさしあげようか。」
ちょっと考えあぐねている。
「オスカル、奥様にさしあげるのもいいが自然は自然のままが一番いい。
そのほうがきれいだ。」
「そうだな。じゃ、私とお前の秘密の場所だ。」
無邪気な笑顔。そして、ゆびきりげんまん。
このまま時が止まればいい。
二人がいつまでも変らないように。
そして淡い思いが変わりませんように。
・ ・・そして月日は流れた。
少年は大人になり少女も大人になった。
変わらない日々などないことを知った今でも秋の木漏れ日を思い出す。
自然のままの美しさを知った日。
淡いおもいがなんだったのか今ならわかる。
そして、どのくらいの秋が過ぎたのだろう。
今、彼女は側にはいない。
けれど心はきっと側に寄り添っているだろう。「絆」という名の。
〜おわり〜