☆ ショコラ ☆


          


  「甘いな」
  「何が?」
  「おまえの微笑だよ」

  悪戯っ子のように肩をすくめてオスカルは囁いた。
  「ショコラみたいだ。甘くて暖かくて・・・」

  「それから?」
  俺はオスカルの肩を引き寄せながら、腕の中に巻き取る。
  どんなに長いこと夢見ていただろう・・・
  オスカルをこの腕に抱きしめ、口づけを交わす日を

  「おまえの微笑みの前には、どんな女でも虜になってしまいそうだな」
  オスカルの瞳が微かに揺れる。

  「焼いてくれているのか?」
  「ふふ・・どうしてもっと早くおまえの魅力に気づかなかったんだろう」
  「過ぎた日々を引き戻したいほど・・・・」

  オスカルの瞳から涙が一滴、頬を伝う

  「俺は幸せだオスカル。たとえ愛し合う日々が短いとしても」
  パリには義勇軍が急速に編成され、不穏な日々が続いている
  いつ勃発するとも限らない暴動。
   おまえは怯えているのか?

  「明日にでも死んでしまうような言い方をするな!」
  責めると言うには悲しい響き。
  オスカルの腕はゆっくりと、俺の首に回され柔らかな唇を寄せる。

  俺はオスカルの身体をきつく抱きしめ、深いキスを落していく。
  ずっと前から、そう前世でもきっと俺たちはこうして愛しあっていた。

 長い口付けの後、おまえの乱れた吐息が漏れる。
 「過ぎた日々を戻したいほど・・?」
 俺は続きを問うた。

 俺の胸に顔を埋めたまま、オスカルは答えた。
 「アンドレ、2ヶ月早い誕生日プレゼントだ。こんなセリフが聞けるのは
 今日だけだぞ・・・」
 しばらくの沈黙の後、オスカルは耳元で囁いた。

 「黒葡萄色の髪と瞳が好きだ。お前の暖かい胸が好きだ。お前の香りが好きだ。
 お前の包み込むような優しさが好きだ。秘めた情熱も、熱い唇も・・・
 お前のすべてを・・愛している」
 「過ぎた日々を戻したいほど・・お前に溺れている・・」
 「お前なしでは生きていけないほど・・」

 俺の頬にいつのまにか暖かいものが流れていた。
 照れ屋のお前から、そんなセリフが聞けるなんて。

 「だから・・わたしの全てをお前のものに・・して」

 手が震えた、心臓が止まりそうだった。
 ”いいのか”と問おうと思ったが俺の胸で震えているお前を見て
 言葉を飲み込んだ。
 そうだ、言葉は必要ない。
 俺はオスカルを抱き上げ、寝台へと歩いていった。

 俺は今、俺の世界の全てを抱き上げているんだ。
 長い間、気が遠くなるほどの長い間かけて
 追い求めてきた全てを・・

 黄金の髪を乱しながら、熱い吐息の下でオスカルは囁いた。

 「甘い・・だけでは・・ない・・」
 「おまえ・・刺激・・的・で熱い・・ん・・だな・・」
 「ショコラの・よう・・に」

   FIN