銀の夢、金の幸福 U


誰かが頬をそっとなでている
それから、優しく髪を梳いてくれる
気持ちいいな・・・
私はうっとりとその手に自分を委ねた

次に暖かなものがそっと触れる
額に、瞼に、鼻先に
柔らかで、熱っぽくて・・・

ああ、これはアンドレの唇だ
私の大好きな
大切な大切なアンドレ・・・

でも、待って
アンドレは今頃パリにいるはず
だって、アラン達が連れて行ってしまったのだから

そうか、これは夢なんだ
あまりにも彼を恋しがっているから
神様がきっと、私に見せてくれたんだな

それなら
この夢を存分に楽しもう
醒めないようぜったいに目を開けないで
彼の首に腕をまわして
しっかりと抱きしめて
その唇に答えて・・・・・

ふふ、なんて豪華な夢なんだろう
アンドレの声までが聞こえてくるなんて・・・

ma cherie
ma belle

繰り返される優しい響き
いくつもいくつも舞い降りてくるくちづけ
嬉しくて
幸せで
目を閉じたまま微笑むと
小さな笑い声が耳をくすぐった

ゆっくりおやすみ、俺のオスカル
朝はまだ遠い
愛してるよ、おまえだけを・・・

穏やかな声はゆりかごのように私を揺らし
深い眠りへと誘ってくれる

おやすみ、アンドレ
私も愛してる・・・
おまえを、おまえだけを・・・

夢の恋人にそう囁いて
私はゆっくりと意識を手放した

「おはよう、オスカル」
私を目覚めへと導くおまえの声
もう少し・・・
もう少しだけ眠らせて
この幸せな時間を止めたくないんだ

「ひどいな。せっかく口づけしたのに、眠ってしまうなんて」
からかうようなおまえの言葉
夢の余韻にしがみついていた意識が急浮上する
慌てて開いた瞳が
微笑むおまえに焦点をあわせる

「ずいぶん積極的だと、喜んでいたのに」
アンドレはくすくす笑いながら
長い指でそっと私の唇をなぞる

高速回転を始めた頭が真実を理解すると
私は固く閉じていた瞼を恨めしく思った

「ひどいのはおまえのほうだ」
少し拗ねて答えると
「ごめん」
アンドレはそう言って
静かに優しいくちづけをくれた

いいんだ、アンドレ
目覚めて一番最初に
おまえの顔が見られたから
一番最初に
おまえの声が聞けたから

ひとりぼっちの夜を包んでいた銀の空は消え去って
かわりにまぶしい金の光が
青い空から降り注いでいる

晴れ渡った空はおまえをうつす私の瞳
輝く光はおまえの好きな私の髪

微笑むおまえを私の色で染めあげよう
そうして
ゆうべ抱えていた淋しさも
泣きたいほどの切なさも
すべておまえに渡してしまおう

けれどその中に見つけた
小さな幸せだけは残しておくんだ
だってこれはひとりで過ごす時間の
私の宝物なのだもの

おまえがくれた宝物を胸に抱いて
私のとびきりの笑顔をおまえにおくろう
会いたかった想いのたけを
朝の挨拶にこめて・・・

mon cheri
mon amour
おはよう
誰よりも愛しい、私のアンドレ