こまりもの オスカルが、湯浴みをしようとして、衣服を抜いていく。 ソフトなコルセットに掛かると、何時もはずすのに時間が掛かる。 着ているのも窮屈なのに、 はずすのさえも困難なこんな代物をつけさせられたのは 何時の事だったろう。 やっとはずし、湯に体を沈めながら考える。 ジャルジェ家の人々が、オスカルを探している。 普段、大人びて、冷静な行動をとり、人に手間を掛けさせないオスカルが、大切な今日になって、姿をくらましている。 頭の切れるオスカルだけに、なかなか見つからない。 アンドレも、みんなが探すのを必死で手伝っていたが、 何をひらめいたか、ジャルジェ家の裏の森に入っていった。 幼い頃といっても数年前だが、オスカルとよく遊びにきた場所だ。 アンドレは、森の奥にある大きな木に向かって声をかけた。 「オスカルかくれんぼは、もう終わりだ。早く降りてこないと出て来辛くなるよ」 その声に、がさりと木の一部が動く。 「アンドレ、よくわかったな。ここだって」 アンドレはにこりと笑い、オスカルが降りてくるのに手を貸している。 「屋敷中、馬小屋のわらの奥まで、使用人一同で探しているんだよ。 早く行かないと。」 オスカルが、木から下りてくる。 「あんなものをつけるために採寸をするなんて。女のすることだ。私には納得がいかない」 「幾ら、君が男の子のように育ったって体は変わっていくんだよ。 それに士官学校に行かなくてはいけないじゃないか。 君だってそれは楽しみにしていたんだろ。 それにはどうしても、必要なんだよ。 それにソフトに作ってくれるっていってるし。」 アンドレは、困り顔にオスカルを見た。 10歳になるオスカルは、もうそろそろ体の変わる時期に入っていた。 幾ら男の子のようにを思っていても体の成長は隠せない。 それに、年少で特別に士官学校に入るのが迫っていた。 そこで、仕立て屋を呼んでオスカルの寸法を測り、 ソフトなコルセットを作ることになっていた。 それが、オスカルにとっては女性のようでいやだった。 「君が帰ってこないと、みんなが困るんだよ。」 「アンドレは、私が女性の様になっていくのが耐えられるのか」 「僕は賛成だよ。君がコルセットをつけるのは。君は女の子なのだから。 エチケットのひとつだと思えば良いじゃないか。どう。」 「アンドレも賛成しているのか。わたしには必要だと思うのか」 オスカルは、頭をくしゃくしゃにしながらアンドレに食って掛かる。 「よし、私に掛かって来い。喧嘩で決着をつけよう」 二人は、取っ組み合いをした。しかし、勝負はすぐについた。アンドレの勝ちだった。 「アンドレ、お前。いつもは手加減をしていたな。」 「そんなことないよ、何時も君につき合わされているうちに強くなったみたいだ。 それでなければ、男の子と、女の子の違いだよ。 それに、僕は、力仕事も最近手伝っているしそれもあるんじゃないかな。」 アンドレはまた、困り顔で言う。オスカルは、そんなアンドレに向かって言う。 「負けは負けだ。おとなしくお前に従ってやる。」 薔薇の香料を入れたお湯を、救いながらオスカルは思い出にクスクスと一人笑いをした。 「あの時は、最悪だったな。アンドレに約束させられて屋敷に戻れば、 ばあやに連れられて、姉うえたちの化粧と香水くさい部屋に、入れられて。体中を計られたっけ。 そうそう、それより最悪は最初につけたときか・・・ あれから、何回、図りなおしをしただろうな」 オスカルは、湯の中で、一人思い出に浸っていた。 「あとで、ワインを持ってくるアンドレを困らせてやらねば。あの時のお返しにな。」 オスカルは、どうやって困らせようかと。クスクス笑いながら思いをめぐらせた。 fin |