〜 四季 〜


☆★☆★☆★ T・桃色の香りの空に ☆★☆★☆★☆★



満開の桜、桜、桜、桜・・・。
辺り一面、やさしい色に染まっている。
オスカルの小さな体など、すぐうもれてしまいそうだ。

オスカルは、桜並木の下でくるくると踊る。
昨日アンドレがやっていた、見たこともないダンスのステップ。
思い出すより先に、体が動いた。

甘い香りといっしょに、うきうきした気分も運ばれてくる。
春とは、こんなに楽しいものであったかと、オスカルは思った。
この春は、兄弟ができてから初めて迎える春。
そう、アンドレと迎えた春―――――。


オスカルは、桜を一枝折って、ジャルジェ家に走っていく。

「アンドレ、アンドレーーーーー!!」
オスカルは、ジャルジェ家の庭にいたアンドレに、手をふった。
すぐにアンドレがやってくる。
「オスカル!」
つやのいい黒髪は、日に映えてきらきらと輝いていた。

オスカルは、アンドレに桜を差し出した。
「これ、並木から持ってきたんだ。あげるよ。」
そう言うと、アンドレは照れくさそうにちょっぴり笑って、
「おれも・・・・・・・、これ。」
彼の手には、桜の枝がにぎられていた。

なんだか空が高く感じる小春日和。

ふたりも、桜の花も、あたたかな日差しの中に溶けていった。




☆★☆★ U・太陽のしずく ☆★☆★


ジャルジェ家からそう遠くない、森の中の小さな泉。
オスカルとアンドレは、今日も馬の稽古と偽って、泉で水遊び。

素足で水の上をすべる感触が心地よくなったら、もう夏。
一年で一番楽しい季節の訪れに、太陽の光をいっぱいにあびて
ふたりの笑顔もきらきらと輝いている。

その時。


バシャ・・・・・・ン!

オスカルが、泉にひっくり返った。
「いてて・・・ッ!」

「おい、大丈夫かよ!」
慌ててアンドレが駆け寄った。
「ああ、たいしたことはない、シャツが濡れたが・・な。」
オスカルは、びしょびしょのシャツをつまんで笑う。

「どうしよう・・・またおばあちゃんにばれるぞ!泉で遊んだって!
 ああ・・どうしよう、なあオスカル!!」

あたふたとして、アンドレはオスカルの方を振り向いた。

「慌てるな、今乾かすから・・・・。」
オスカルは言いながら、いきなりシャツを脱いで水をしぼりはじめた。
「お・・・おい待てよ!!やめろ、脱ぐなぁ!!!」
アンドレは必死で、オスカルを近くの木陰に引っ張って行く。
「ここで脱ぐな!み・・・見ないから、あっちでやれ!バカ!」

オスカルは、アンドレの態度に慌てている。
「どうしてだ・・・・、おいちょっと、おい!アンドレ!」 
そのうちにオスカルは、ぐいぐいと木の陰に押し込まれてしまった。

静かな泉の森に、ふたりの声がこだまする。

青空に高くきらめく、大きな太陽がまぶしかった―――――――――。






☆★☆★ V・秋の匂い ☆★☆★



蜜柑色のまあるい夕日が、丘の向こうへ滑り落ちていく。

橙色から薄紫への、大自然のコントラストの中、
オスカルとアンドレは、馬に乗って草原を駆けていた。

「ごらんよアンドレ、きれいな夕日が・・・・。」
オスカルは馬を止めて、大きな夕日を指さした。
「本当だ!すごいなあ・・・・・・。」


ふたりの横顔を、風に靡く草を、秋の空を・・・・・・・。
すべてをオレンジにして、太陽がいなくなってゆく。

「素晴らしい景色だね、アンドレ!」

オスカルは夕日に向かって手をかざし、指の隙間から漏れる淡い光に
まぶしくて目をつむっている。
よほど感動したのか、オスカルは、明日もまた見に来ようと言い出した。

そんなオスカルに、にっこりわらってアンドレが答える。

「うん!ここで見る夕日って、おっきなパンケーキみたいだもんな!
 おいしそうでおいしそうで・・・。オスカルも、そう思ってたんだろ?」

暗くなり始めた大地に一陣の風が吹き抜ける。
少しむっつりして走るオスカルの後を、アンドレが慌てて馬を追いつかせる。
その時、アンドレが、鼻をひくひくさせて嬉しそうに言った。
「ほらオスカル!どこかの家から・・・チキンスープの匂い!!」

「あれはジャルジェ家だ!ばあやが、今日はチキンスープだと言っていた!」
すると、いきなりアンドレの顔色が変わった。
「そういう事は早く言えよ!おれには、味見係の仕事が待ってるんだ!」

薄暗い小道の中に、風のように消えたアンドレを見て、オスカルはただ
笑って馬を走らせる。

小さな秋のある日の事だった―――――――。






☆★☆ W・お誕生日おめでとう! ★☆★☆


12月も半ばになると、ジャルジェ家はあわただしくなる。
そう、オスカルの誕生日のパーティーに向けて準備を始めるのだ。

毎年ドレスを着せようとたくらむばあやは、こっそりと注文して、
誕生日の日の朝、部屋のクローゼットに掛けておく。
しかし、オスカルがドレスを着て現れたことは一度もない。
そんなばあやが少し可哀想だと思いつつも、オスカルの、『男』としての
プライドは、かたくなにドレスを拒んでいた。

12月25日、朝。

目覚めたオスカルを待っていたのは、きらびやかなドレス・・・ではなく
新しいマフラーだった。名前の刺繍も入っている。
びっくりして手に取ると、一枚のカードがひらりと落ちた。

『 お誕生日おめでとう。親愛なるオスカルへ。
      ―――――――――――――アンドレ・グランディエ 』 

「アンドレ・・・・。」
オスカルは、思いがけないプレゼントにすっかり嬉しくなった。

その時、朝も早いのに、ばたばたと階下から走る音が聞こえてきた。

きっとばあやだ!

オスカルはそう思って、ベッドにもぐって寝たふりをした。

すぐに、ばあやが息を切らして部屋に入って来た。
「ヒイヒイ・・・今日はオスカル様の誕生日!
 ドレスを入れるのを忘れてしまった・・・・・あたしとしたことが!
 でもまだお休みのご様子・・・今のうちに・・・!」

ばあやはさっさとドレスをクローゼットに掛け、そっと部屋を出る。

「今年は青のドレスか・・・年々派手になるなあ・・・!」
オスカルは、ベッドの中でクスクスと笑いながら、アンドレからもらった
マフラーを抱きしめて、2度目の眠りにつこうとしていた。