笑顔の行方




お前の笑顔が、いつも俺を闇から救い出してくれる光だった。

その笑顔を前にすると、俺の邪まな欲望はいつも消えた。

お前を女として愛するようになってから、

自分でもどうしようもない欲望がときおり体を突き上げてくることがあった。

力ずくで奪うことは、その気になればいつだってできた。

お前はいつだって俺の前だけでは無防備だったから。

けれど、お前の俺にだけみせる安心しきった笑顔や呼ぶ声が

その欲望をいつもかき消した。

かすかな優越感とともに。

けれどあの夜、他の男に心を奪われ苦しみ傷つくお前を見て、

俺のなかで心の奥に沈殿していた醜いものが、

お前への報われない苦しい愛と絡まり爆発してしまった。

お前をいとおしく守りたいと思う同じ分だけ、

お前を粉々に傷つけてしまいたい、

そうすることでお前を独占したい、支配したいという思いに俺は・・・・・・・・・

お前の涙が、俺をとどめてくれた。

このままお前を力ずくで自分のものにして、

お前を傷つけて・・・苦しめて・・・

そんなことをしたらもうお前のあの笑顔は二度と見れない・・・・。

俺を金色の光で包んでくれるかのような笑顔は・・・。

お前が不幸になるなら俺も不幸になる

どうして愛するお前を傷つけ羽をもぐようなことができる・・・


あの夜のことをオスカルは許してくれた。

俺を遠ざけたりはしなかった。

何もなかったかのように、オスカルは俺に笑顔をくれる。今も。

そして俺も、男として愛されてはいなくても、

誰よりもお前のそばにいて、お前に信頼されていることで

十分幸せだと言い聞かせる。

そう。俺はけして不幸ではない。

愛する女のすぐそばにいれる。

愛する女は誰のものでもない。

報われぬ片恋をしている男の中で、俺は幸せな男のはずだ・・

・・・・・いまは・・・・まだ・・


もしいつかまた・・・お前が他の男を愛したら・・・

その笑顔を、まだ俺すら見たこともない甘く戸惑うの女の顔を

他の男に見せる時が着たら・・・・


そのとき俺は、また心の均衡を崩すだろう

今はかろうじて保っているお前への愛の均衡が崩れたとき、

俺はきっと・・・・お前を苦しめ傷つけてでも・・・・。

お前を傷つけ苦しめることによって俺自身が誰より苦しむと

わかっていても他の男に渡すくらいなら・・・きっと俺は・・。



「アンドレ・・・?どうしたボーっとして」

涼やかなオスカルの声

「いや・・・なんでもない、さすがに勤務続きで少しつかれたのかもな」

「お前でも疲れることがあるんだな」

からかうように笑うオスカルの笑顔に



俺は見とれていた・・・・。