初めての発表会



わたしがレディになるお勉強をしにオスカルお姉ちゃまのお家へやってきてから2ヶ月が過ぎた。


「ああお腹がすいた」 
朝早く、わたしはレッスン室へ向かう。目を覚ましてからわたしはお水しか飲んでない。
朝にダンスのレッスンがある日は、体が重くなっちゃうから朝は何も食べてはいけないのだ。

「やあ、ル・ルー、お早う。」
オスカルお姉ちゃまはもうレッスン室で待っていた。朝のやわらかい、白い光がオスカルお姉ちゃまを包みこみ、ブロンドの髪をプラチナ色に変え、白い肌を輝かせる。
「(きれい・・・。)」
わたしはしばし見とれてしまう。
「(私も大きくなったらああなるのかしら・・・。)」

「さあ、ル・ルー。今日は新しいパ(ステップ)を教えよう。」
「また新しいパ?」
「そうだ。ル・ルー、お前はダンスの飲み込みが早い。前回教えたパは、もう覚えたはずだ。」

クラブサン奏者がクラブサンを弾き始めると、ダンスのレッスンの始まりだ。
 オスカルお姉ちゃまはまるで氷の上を滑るように、模範演技を踊る。そして、時には厳しく、時にはやさしくわたしに手ほどきをしてくれる。

「さあ、ル・ルー。このパと、今まで教えてきたパで一つのアンシェヌマンができる。」
「アンシェヌマン?」
「そうだ、小さな踊りを一曲踊れるんだよ。実は来月の10日に小さな発表会をやろうと思っている。残念ながら姉上を呼ぶことはできないが、父上と母上の前で披露してみないか?」
「おじいちゃまとおばあちゃまの前で?」
「そうだ。」
「わたしの踊りを?」
「そうだ。」
「・・・・・。」
「どうだ、やってみないか?」
「・・・・・。やってみるわ!」
わたしは元気良く答えた。オスカルお姉ちゃまはにっこりと微笑んだ。

それからというもの、わたしの頭の中は四六時中発表会の事でいっぱいだった。廊下を歩いている時も、座ってお勉強している時も、ベッドで寝ている時も、わたしの足はステップを踏んでいた。
 お食事の時間でさえわたしの足はおとなしくしてくれなかった。オスカルお姉ちゃまには散々注意された。
「こら、ル・ルー。お行儀良くお食べ。」
わたしは舌をペロリとだした。それを見ておじいちゃまとおばあちゃまが声を立てて笑う。

 そして発表会当日。ダンスのレッスン室には花が飾られ、おじいちゃまとおばあちゃまのために大きな肘掛け椅子が二脚置かれた。
 わたしはレースのついた白いドレスを着て、髪には生のばらの花を飾った。

 クラブサンの伴奏に加えて、オスカルお姉ちゃまもバイオリンを弾いてくれた。
 わたしは一つ一つのパを踊りこなすのがやっとで、しかも緊張のせいで手足がいつものレッスンのときのようにうまく動かない。それでもわたしが踊り進むにつれて、おじいちゃまとおばあちゃまの顔がほころぶのがわかる。オスカルお姉ちゃまもバイオリンを弾き
ながら微笑みを浮かべたまなざしをわたしにむけている。
「わたし、愛されているんだわ・・・。」

 たとえようもなくあたたかな空気で部屋はみたされ、その空間に存在することの幸せをわたしはかみしめた。
 最後のパを踊り終えた時の達成感といったら!

 おじいちゃまとおばあちゃまは立ち上がって拍手してくれた。オスカルお姉ちゃまもj拍手してくれた、おまけにクラブサン奏者まで。

 わたしの顔は心地良い疲れと照れくささとで真っ赤に染まった。いつまでも鳴り止まない拍手を浴びながら、わたしはドレスを両手でつまんでゆっくりとお辞儀をした。この上ない喜びと幸せに満たされながら・・・・・。

FIN