「賭け −12月の誕生日−第8章」
「静か…だな」
揺れる馬車の中、小さくおまえが呟いた。
「そうだな」
俺も短く答える。
仕事のキリが良いところで、帰ることにした俺達だった。
今日1日…といっても、お屋敷を出て、今までだが、敗者であった俺にとっては、長
い長
い1日だった。
おまえからの願いを聞き入れたものの、気が付けば、おまえに触れたくて。
その度に、柔らかい拒絶にあってしまう1日だった。
目の前にいるのに、触れることが出来ない。抱き合うことが出来ない。
想いが通じ合う前だったら、当然のことだったのに…。一度、恋人同士の時を持って
しま
うと、それさえもが我慢できなくなっていた。
俺は、何て欲の深い男なのだろう。
「何を…考えている?」
遠慮がちな、おまえの声に俺は顔をあげた。
「ん?」
「ずっと…黙り込んで…難しい顔をしたままだ」
「そうか?」
「うん」
おまえは小さく頷いた。その少女のような仕草が、俺の欲望に火を付けることをおま
えは
気づいていない。
「もしかして、怒っているのか?」
「何を?」
「私が…あんな事を言い出したから…」
ああ、そうか。
俺が黙り込んでいるのは、おまえの願いを聞いて不機嫌になっているからだと思った
の
か。
「そんなこと…ないよ」
俺は出来るだけ優しく言った。
「ほんと?」
「ああ」
「だったら、いいんだ」
心配そうだったおまえの顔に笑みが浮かぶ。
「隣に座ってもいいか?」
おまえは少し考えていたけど、構わないと答えてくれた。
おまえの隣に座り、肩へ手を回すと、おまえはゆっくり俺にもたれ掛かってきた。
柔らかな髪が、俺の頬を擽る。
ああ、やっとおまえを感じることが出来る。
「おまえの肩…気持ちいい」
うっとりとおまえは言う。
「肩だけじゃないと思うぞ、気持ちいいトコは」
俺の言葉におまえはクスクス笑いだした。
「莫迦」
「本当のことだろ」
「どうかな」
「今夜、ゆっくりとおまえにわからせてやるよ」
「…莫迦」
おまえは、小さく呟いた。とびきりの甘い声で。
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