初めての戸惑い

今日は久々の休暇だ。15歳の若き近衛隊士オスカルも
この日ばかりは子供の顔に戻っていた。
 「アンドレ!!遠乗りにいくぞ!早く用意しろ!!」
 「何もこんな早くに・・・。もう少しあとでもいいだろう?」
 「いやだ!今すぐ行きたいのだ!!」
ハイハイ・・とつぶやきながら、宮廷では決して見られないオスカルの
はしゃぐ姿をアンドレは楽しく感じていた。

 「気持ちいいなーアンドレ」
 「あぁ しかしどこにいくつもりだ?」
 「ん?姉上のところだ。子供の顔がみたいんだ」
アンドレはようやくこんな朝早くに遠乗りをしたがった理由がわかった。
オスカルの姉に2週間前子供が生まれたのである。

 小1時間して姉上の屋敷に到着した。
オスカルは執事の挨拶もろくに聞かず、姉上のところに直行した。
 「姉上、お元気ですか?」
 姉上は突然のお客様に驚いた顔をして
 「まぁオスカル・・・どうしたのいきなり・・・」
 「いえ、遠乗りのついでに・・・なぁアンドレ」
アンドレはそれを聞いて苦笑しながら
 「なにが遠乗りのついでにだ?赤ちゃんの顔がみたかったくせに」
オスカルは思わずキッとアンドレをにらんだ。 
 「オスカル、ほら赤ちゃんよ。あなたの姪よ・・・・」
オスカルは生まれて初めて赤ん坊を腕に抱いた。
 『何とふわふわして温かいのだろう。その小さい手、むくな微笑・・・・
 なんていとおしいのだろう』  
今まで剣や銃しか手にしてこなかったオスカルにとってこんなに甘い
心地よさは初めてだった。
 「おまえも赤ちゃんがほしくなった?」アンドレが聞く。
 「あぁ・・・時々妹や弟がいたらな・・・と思うときがある」
 「おいおい自分で生むのではないのか?」
 「私は軍人だ!!軍人には必要ない!!!」
そういいつつオスカルの心は少し痛んだ。
 『元来男が勤める軍人は子供を産むことはない。しかし、私はどうだ?
 女であり、軍人である。私もいつか自分の子供がほしいと思うことが
 くるのだろうか?そのとき私はどうするのだろう?』  
オスカルの曇った顔をみて、赤ちゃんが泣きだした。
 「おーよしよし、オスカル、俺にかしてみろ」
アンドレの優しく微笑む顔をみて赤ちゃんは泣き止んだ。
 「なれたもんだな」
 「いつもじゃじゃ馬お嬢様のお世話をしておりますので」
 「何ーーーーーーっ!!!!」
また赤ちゃんが泣き出す。
 「すまない、私が悪かった。なきやんでおくれ・・・」
 「オスカル、いつかおまえに子供ができたら俺が世話してやるぞ!!」
 「だ誰が子供を産むもんか!!」
顔を真っ赤にして怒るオスカルをみてアンドレは笑いつつも
 『いつかオスカルも貴族に嫁いでいき、子供を産むのであろうか?
 そのとき俺はどうなるのだろう?』 と芽生えつつある恋心に痛んでいた。

 帰り道、オスカルはつぶやいた。
 「私は軍人だ。一生嫁がないぞ」
 「そんなこと誰にもわからないさ、オスカル」
それはオスカルが恋を知る前ののどかな一日だった